生活雜記

【隨筆】本と本屋さん

本が好きである。

どんな本の一頁の向こうにも、まだ知らぬ世界が私を待っている。その予感こそが、私が本を愛してやまない理由の原点なのかもしれない。

ふと「本屋に行こう」と思い立つと、その瞬間から胸が弾み、自然と鼻歌まじりに足取りが軽くなる。私にとって本屋とは、本という形を借りた広大な可能性が棚に並ぶ場所である。

最近も、本屋に足を運ぶときは、必要な本を探すというより、むしろ未知の一冊と出会うために入っていくことが多い。扉をくぐれば、雑誌、小説、専門書……さまざまな本が万華鏡を覗くように色鮮やかに輝き、目を奪う。

もちろん今では、インターネットを使えば自宅に居ながらにして本を買うことができる。しかし、紙の本や雑誌という形をまとった未知の世界が、ときに秩序をもって、ときに混沌のまま、精神の目にひらけてくる――その感覚は、本屋でしか味わえない。立ち止まり、書架を眺め、タイトルや装丁に惹かれた本を手に取り、ぱらぱらと頁をめくる。やがて別の棚へ移り、また新しい一冊に出会う。その繰り返しが、たまらなく楽しい。

近頃は、本屋自体が本の並ぶ空間にとどまらず、カフェやギャラリーを併設したり、イベントを開いたりして、人々をつなぐ場へと変わりつつある。本と響き合う展示や朗読会、一人の読書を複数人で共有する試み、本の貸し借りのスペース……。本屋の楽しみは、以前にも増して広がっているように思える。

本が好きである。

だから、いまの本屋から目を離せない。今日読んだ一冊を、明日誰かに伝えたくなる。昨日買った本は、この人にふさわしいと貸してあげたくなる。街角でふと見つけた本屋に吸い込まれてしまう、そんな胸の高鳴りがある。きっと誰にもお気に入りの洋服店があるように、心ときめく本屋との出会いがあるはずだ。その扉を押し開け、一歩足を踏み入れれば、あなたはきっとどこへでも行けるだろう。

だから、私は本が好きである。

2010年秋
覓栖


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